#Chapter1
小さな身体、大きな跳躍
―4歳で出会ったトランポリン ―
4歳のときに地元のデパート屋上にあったトランポリンと出会い、 その楽しさに目覚めトランポリンを習い始めた。初めて跳ねた瞬間、ふわりと宙に浮かぶ感覚に彼女の目は輝いた。小さな身体が大きく空に舞うたびに、笑顔がはじけた。まだ言葉も拙い頃、「もっと跳びたい」と何度もねだったという。
トランポリンは彼女にとっての"遊び場"から"目指す場所"へと変わっていった。
家族の支え、指導者との出会い、小さな跳躍の積み重ねが、やがて世界を驚かす大きなジャンプにつながっていく――そのはじまりは、確かにここにあった。
#Chapter2
史上最年少の快挙
―全国の頂点へ、14歳の覚悟―
2013年、まだ中学2年生。森ひかるは全日本選手権の舞台に立ち、14歳という年齢で日本一に輝いた。歴代最年少での快挙。観客のどよめきとともに、その名前は全国に響き渡った。
その裏には、友達との放課後の遊びは一切断り、週6日、黙々と跳び続けた。神経を注ぎ、「もっと上手くなりたい」「もっと高く跳びたい」という純粋な想いだけを原動力に進んできた。
思春期の多感な時期、周囲の期待に戸惑いながらも、彼女は逃げなかった。全国の頂点に立ったその日、彼女はひとつの覚悟を決めていた。――次は、世界だ。
#Chapter3
世界を驚かせたゴールドジャンプ
―世界選手権で日本人初の金メダル ―
2018年、シンクロナイズドで挑んだ世界選手権。ふたりの息がぴったりと合ったその跳躍は、世界中の視線を奪い、日本女子として初の金メダルをもたらした。
さらに2019年、個人種目でも頂点に立ち、日本人初の世界選手権個人金メダリストとなった。その瞬間、森ひかるという名は、世界の記録に刻まれた。
金メダルの裏には、何百、何千というルーティンの反復があった。手足のわずかな角度、空中での姿勢、着地のブレ。1ミリの修正を求めて跳び続けた日々。壁にぶつかるたびに泣き、悩み、葛藤し、ぐっすり眠れない日が続いたけれど、それでもあきらめなかった。
世界の頂点に立ったとき、母国開催で観客席が満席で、全員が立って喜んでくれた景色は一生忘れない。森ひかるはただ喜びに震えていた。そこには、ひたむきな努力と、支えてくれた人々への感謝、そして何よりトランポリンへの愛が詰まっていた。
#Chapter4
悔しさの先にあった「好き」という気持ち
―東京オリンピック、衝撃からの再出発 ―
2021年、東京オリンピック。母国開催、誰もが期待する中で、まさかの失敗。予選敗退。
悲しさ、残酷さ、難しさ、申し訳なさ、感謝。いくつもの感情が押し寄せた。その時、いつも笑顔でいる彼女の心に簡単には消えない深い傷ができた。
あらゆる場面で「金メダル」という言葉を言われるたび、銃で心を撃たれるような感覚。22歳にして大きなプレッシャーを背負って戦い終わった私から出た言葉は、「もう跳ばなくて済む。引退する。」だった。
しかし、多くの人に助けられ、傷はかさぶたとなり、ゆっくりと心を癒してくれた。
久しぶりにトランポリンを跳んだ日、「楽しい」と思えて、久しぶりにトランポリンを心から楽しめて、好きだと感じられた時、私は本当に嬉しかった。それと同時にこの気持ちは絶対に忘れてはいけないと誓った。
そんな気持ちが、彼女を再び立ち上がらせた。失敗から多くのことを学んだ森ひかるは、トランポリンを通して人としても成長をする」というテーマと共に再出発した。
#Chapter5
仲間と、世界と、もっと高く
―パリオリンピック、そして次のステージへ ―
2024年、パリオリンピック。
私は再びオリンピックの舞台に立つことが本当に怖かった。しかしそれ以上に再びその舞台へ立つことの挑戦を諦めたくなかった。東京オリンピックからの3年間、恐怖やトラウマと必死に戦った。
再び大舞台に戻った彼女は、決勝に進出し、6位に入賞した。そして東京オリンピックにはなかった満席の観客の景色と耳が壊れそうな歓声、体に響き渡るような歓声を心から楽しめた。
誰しもがみてわかる輝かしい結果ではなかったが、深い傷を乗り越え戦い切った自分が誇らしく、成長を感じられたことが本当に嬉しかった。
跳躍には、ただの技術ではない、経験と念が詰まっていた。しかし、多くの競技がテレビで放送される中、トランポリンはTVerのみ。
また、帰国してから言われた言葉は「残念だったね。次はメダルを取れるといいね。」私は本当に悔しかった。
そして、2025年から更なる成長を目指し、イギリスを拠点とした生活を始めた。言葉の壁、文化の違い、慣れない環境一一そのすべてが、彼女の視野を広げた。仲間に助けてもらいながら、技術だけでなく、人としても大きく成長していった。
そして2025年、7月のワールドカップでは個人で自己ベストを更新し、SAランクを獲得した。着実に歩みを進める彼女は、もはや「結果」だけに縛られていない。誰よりも歩む道にこだわり、想いを込めて跳ぶ姿が、応援してくださる方々の心にも届いてパワーになれば嬉しい。
#Chapter6
「私を知って、トランポリンを知ってほしい」
―競技の魅力を広げるアンバサダーへ ―
今、彼女が目指すのは大きく2つ。
1つは、「トランポリンの魅力を広めたい」
トランポリンの魅力を伝えるために、私が出来ることは「森ひかる」を知ってもらうことだと思った。SNSでの発言やメディア出演を通して、トランポリンの魅力を伝える活動を続けている。
プレイヤーであり、アンバサダーでもある。ファンとつながるイベント、オリジナルグッズの展開。明るく、ユーモアあふれるキャラクターで、自然と人を惹きつけていく。
「私を知って、トランポリンを知ってもらえたら嬉しい」。その一言に、彼女のすべてが詰まっている。
2つ目は、「スポーツの本当の価値を伝えられる人になりたい」
スポーツは結果が評価されやすい。もちろん結果は大切だが、スポーツにはスポーツマンシップ、失敗成功勝敗からの学び、それまでの歩みなどがあり、メダルや記録だけがアスリートの価値ではない。
また多くの選手プレッシャーを感じているスポーツ界。それが下がれば、パフォーマンスはより良くなる。ということを伝えられる人になりたい。
そんな想いも持つ彼女は、これからも更なる上、新たな歴史を目指し跳び続ける。
ただ高くではなく、深く、強く、そして心に届くジャンプで。「森ひかるは挑戦し続ける」。